隣で幸せそうに寝ている『親友』のハンターを横目で捕らえる。
酒には強いほうである彼が酔い潰れるまで呑んだのは、これで二度目だ。
 一度目は、プロポーズを受け入れて貰えた日。
自分の露店に転びそうになりながら、報告に来た日のことをBSは良く覚えていた。
 興奮して紅潮した頬や整わない息の中、嬉しそうに弾んだ声で自分の淡い想いを切断するようなことを言ったのだ。当然、忘れるわけがない。
 その時、自分はカラカラに乾いた喉のせいか声が出しづらく「おめでとう」の一言が上手く言えなかった。
ちゃんと笑顔も作れたかどうかも怪しいものだったが、浮かれまくっていたハンターには気づかれなかったと思う。
 その日、奢りだと言うので自分の失恋記念も兼ねて明け方まで騒いで呑んで。
まぁ、今と大してかわらないか。と、目の前のボトルを掴みちょっと笑んだ。
「おい、ちゃんとベッドで寝ないと風邪引くぞ?」
 一応声をかけてみるが、余程深く寝ているのであろう。唸りもしないで規則正しい寝息が返ってくるだけだった。
「…主役が風邪引いた、なんてみっともないことこの上ない」
 風邪を引いてしまえばいい。明日のことなんて中止になってしまえば。
自分の中で囁かれる声に少し頭を振って否定する。
 彼の幸せこそが自分の望みのはずなのに。
机にうつ伏せ状態で寝ているハンターを揺さぶってみるが、全く起きる気配がない。
 BSは大きく溜息をつくと、ハンターを抱えてベッドまで運ぶことにした。
「よいしょ、っと」
 製造の腕がない自分は、戦闘で生計を立てるしかない。モンスターを早く殲滅する為に鍛え上げられた筋肉は、人一人くらいは簡単に抱えることができる。
「………」
 軽いな、と本人が意識のあることろでは決して口に出せないことを思い、苦笑する。
男としても小柄に入るこの青年が、まさか自分より先に結婚することになるなんて思ってもみなかった。
 いや、自分は結婚はしないだろう。この先、決して。
ずっと、決して。
 ベッドにハンターの身体を下ろし、自分はサイドにある小さな椅子に腰掛けた。
独身最後の夜だから、と酒に誘ったのは自分だった。
 明日から、他人と寄り添って生きる青年の最後の独りの夜に、自分と一緒に過ごして貰いたかった。
 我ながら女々しいな、とBSは笑ってハンターの顔を覗き込んだ。
幸せそうに眠るその顔にBSも穏やかな笑みが浮かぶ。

「幸せそうに寝やがって、人の気も知らないで呑気なもんだ」
 知らせる気も毛頭ないけど。

「結婚、おめでと」
 寝顔にしか話せないけど。

「俺、お前のことずっと好きだった」
 秘めごとを口にするのは、これが最初。



「ずっとずっと、多分、これからも好きでいる」

 秘めごとを口にするのは、これが最後。