呼び出されてから、多分5分もしないで首都に到着した。
ワープポータルのメモを首都で取っているのだから、早いのは当たり前なのだが。それでも、友人達と狩りの真っ最中から抜け出して来たにしてはこの5分は褒められるべき時間だとプリーストは思う。
「遅い」
 プリーストをWisで呼び出した本人は、のんきに露店を構えながら軽く喧嘩を売ってきた。
 その喧嘩、今なら高額で買取るぞ?などと、普段から買取を専門にしているBSに向かって危うく言い放つのを息を詰めることで押さえ、プリーストは変わりに違う台詞を口に出す。
「お前なぁ、狩り中にいきなりWisで呼び出しやがって…それでその態度は無いんじゃね?」
 笑顔で言うもこめかみに見える青筋は気のせいなんかじゃない。
「大体なんだよ、『凄い困ったことになったから、お前に会いたい』だなんて切羽詰った声で言うから……てっきり、俺はお前が俺以外の男に言い寄られて貞操の危機を感じているとか思ってすっ飛んで来たのに」
 そうなのだ。ただの呼び出しであれば狩りを優先させるが。しかし、尋常じゃない声の調子にただ事ではないと判断し、一人PTを抜けて首都に来たのである。
そんな甲斐甲斐しいプリーストに、BSは言い放った。
「は?馬鹿か、お前は」
 馬鹿、の言葉に自然にショックエモが出る。
何を隠そうこのプリースト、INTが1なのだ。
「ば、馬鹿って言ったほうが馬鹿ー!!」
 …早く説明すると、ちょっと筋肉に栄養を取られすぎなのだ。
「あのな、俺なんかに言い寄る馬鹿はお前しかいないっつの」
 まぁ、その馬鹿さ加減が可愛いだなんて口が裂けても言えないけど。
「俺、馬鹿じゃないぞ!お前が複数の人間と付き合っていることだって知ってる!!」
「は?」
 銜えているタバコを落としそうになったBSは、プリーストをまじまじと見つめる。
誰が、何をしたのを、知ってるって?

「…この間、なんかガスマスクしたウィザードと真剣な顔で話してた」
「………後輩のBSの所在を聞かれてただけだぞ?」

「その次の日には、眼帯したプリーストとも小声で親密に話してた!」
「青石を原価近くまで値下げしてくれって交渉されたな」

「昨日なんか、ペット連れた騎士と抱き合ってたじゃないか!!」
「ペットフード代購頼まれて、えらい量の品物を渡した時騎士さんがよろけた時、支えたが?」

「……」
「誤解は解けたか?」
 己の間違いに気づいたプリーストが唇を噛みながら舌を向く。
確かに、今言った人達は付き合っているわけじゃないみたいだが。それでもプリーストは知っている。
 このBSの本命は自分じゃない。この男は、何度も告白してきた自分の気持ちに答えたことが無い。
「で、そろそろ本題入っていい?」
「はっ!言い寄ってくる男退治か!!!」
 ちょっとブルー入りかけた思考を無理やり戻して辺りを見渡す。
該当するような人影は見当たらない。
「……言い寄ってくる男なんて、いないじゃねぇか」
「いや、だからいないって言ってるだろ」
 もう、本当…馬鹿。
「じゃぁ、何だよ、用件って」
 やっと真面目に(いや、本人ずっと真面目だったんだけど)聞く気になったプリーストをちょっと見て、タバコを銜えなおす。
「あー…、今日から、お前んとこに世話んなる。………見ての通り、今の俺は赤貧だ」
 よくよく見てみると、出している露店の品物は収集品ばかりである。しかも、需要が無さそうな。
「俺を養え」
 なんか、プロポーズみただなぁ、と一瞬プリーストは思ったが。
「おう、任せろ。三食昼寝付き、更に俺の添い寝もプレゼントキャンペーンだ」
 そんな事を考えただなんて億尾にも出さずに、快く承諾した。


 あぁ、やっぱ馬鹿。
口に銜えなおしたタバコを無造作に投げ捨てる。足で火を消し、吸殻は拾ってゴミ箱に入れた。
 このプリーストの馬鹿さ加減にも、正直もう辟易していた。
一方的に告白してきて、返事も聞かずに去るばかり。
むしろ、返事を言っても変な解釈をされるし。
あぁ、もうこうなったら実力行使しかないな。
 BSは正直、両思いだって分からせる努力に辟易しているのだ。
あまり気が長いほうではないBSが実力行使に出てもおかしくはないだろう。


よく見ればカートの中にはM級レアがてんこ盛りなBSには気づかずに、好きな人と二人きり!と喜ぶプリーストは本当に、馬鹿なのだ。
 Wisでの声の通り、BSは切羽詰っているし。まぁ、この場合、貞操の危機を感じなければならないのはプリーストの方なのだが。


 ほら、なにぶん、馬鹿だから…。