そよそよと心地よい風が頬を撫でるのを感じる。
こうしてボーっと座っていると眠たくて仕方がない。
 フワフワとした極上のクッション…もとい、ペコペコに背を預けながら、騎士はこのまま寝てしまおうかと考えた。
が、ここは敵の出ない街中と言えども路上である。
 すでに宿も手配してあるし、収集品とプチレアを売りに行った仲間が帰ってくるまでは起きてようとメガネを外し目を擦る。
「隊長? 眠いんスか?」
 留守番組のアサシンが騎士のそんな様子に気付いたのか、顔を覗き込んでくる。
「…いや、大丈夫だ」
 曲がりなりにも自分は、PTのリーダーなのだから毅然としないと。とは、思うものの、瞼の急降下は回避できそうにない。
「昨日、遅くまで本なんか読んでるから眠たくなるんスよー」
 アサシンがからかう様に言うのも、尤もである。
昨晩は騎士団の後輩から譲り受けた本(全7巻)を夜中まで読んでいたのだ。
 PTのリーダーとして毅然とした態度をとる前に、リーダーらしい生活をしたほうが良さそうだ。
「うるさい」
 睨む為に顔を上げると、視界が急に暗くなった。
次いで、唇に暖かい感触。
「…んんっ」
 突然のことで反応できていない騎士を良いことに、キスはどんどんと深いものになっていく。
普段であれば「やめんか!馬鹿もの!」の一喝と共に殴られる場面なのだが、騎士の眠気は正常な判断を遅らせるには充分なもので。
 大通り側には自分の大きなペコペコがいるし、反対側は民家の壁だ。ちょっとくらいキスしていたところで誰に見られるというわけでもないだろう。
が、騎士のその判断は甘かった。
「…ん…ッ、て、ちょっと待っ」
 長い口付けの後に、アサシンの頭は騎士の首筋に移動した。
もちろん抗議の声を上げるが、アサシンはニッコリと言い放った。
「隊長の眠気を飛ばすの、俺がお手伝いしますよ」
 言うと同時に下腹部をやんわりと触られる。
まずい。ヤる気になってるよ、この馬鹿シン。
 と、心の中だけで毒づく。キスの余韻と巧みな指使いで、口を開こうものなら絶対に抗議ではなく、アサシンを喜ばせるような声しか出てこないだろうから。
「っ……ぁ…っ…ん」
 手で押さえた口元から声が漏れる。
「隊長? ここ、一応外だから、もちっと声我慢してくださいねー」
 至極楽しそうなアサシンの声に、かぁと頬が熱くなるのがわかる。
外でまずいと思うなら、やめればいいだろう。
 何時の間にか、アサシンの手はズボンの中に入れられていて、直に揉むように触っている。
「んっ…ん…」
 厚手の手袋を噛むようにして声を抑える。
自分の後ろにはペコペコ。そして、その更に後ろには人々が普通に闊歩しているのだ。
 日常との境界線がドア一枚もないこの状況で声など出せるはずがなかった。
「…いつもより、興奮してません?」
 クチュ、と手の中で水音を出しながらアサシンは騎士の耳元で囁く。
否定を籠めて睨むと、その目元にキスを落とされた。
「こんなところで煽らないでくださいよ」
 止まらなくなるじゃないスか、と恐ろしいことを言いながら擦る手を強くする。
「…んっ、も……ぅん…」
 限界が近いのを訴え、ギュっと目を瞑る。
見えなくても目の前のアサシンが笑ったのが分かった。
「隊長、可愛い…」
 顔中に口付けをしながら、手の動きを早める。
もう少しで限界なのは触っている自身からでも充分にわかっていた。それでも自己申告をする騎士の普段の横柄な態度とのギャップに笑みが漏れる。
 が、突然。

「お取り込み中悪いんだけど――――」

 思わず、騎士とアサシンは固まる。
この聞き覚えのある声は、自分たちのPTメンバーのものであるのは瞬時に分かった。
「もう辺りも薄暗いしさ、続きは宿でってことにしない?」
 ギ、ギ、ギ、と錆付いたブリキのオモチャのようにぎこちなくペコペコの上のほうへ顔を向けると、未だ少年くささの抜けていないハンターと目が合った。
「俺、お腹すいちゃってさー」
 大通り側からペコペコに凭れ掛かっているのだろう。ペコペコに肘を付ながら、自分の提案にうんともすんとも答えない大人たちを見下ろしている。
 固まっている二人は、もちろんアサシンの手は騎士の自身を掴んだままだし。騎士自身だって勃ったままだし。
 そんなことに全く頓着していないのか、ハンターは勝手に一人で話を続けていく。
「終わるまで待とうかなとも思ったんだけどさー。ほら、やっぱり俺もあいつも成長期だから空腹には勝てなくって。 って、そうそう、流石にあいつに濡れ場なんて見せるわけいかないからさー、先に宿に行ってもらったけど……」
 あいつ、とはハンターの親友のプリーストのことだ。
良家のご子息として育ったプリーストには、確かに刺激が強いだろう。
「…いつまで、固まってるんだよ! もう、ペコペコ動かすぞ!」
 よほどお腹が空いているのだろうか。普段よりも少し気が短く感じられる。
が、そんな彼のお腹を心配している場合ではない。
「ちょ、ちょっと待て! ってか、大分待て!!」



 ペコペコを立ち上がらせようとしているハンターを何とか説得しようとする騎士とアサシンの声は、大通りまで聞こえたそうな。