知っているよ。分かっている。
起きて顔洗って飯食って、それからいつもの時計塔だろう?
「……なぁ? 飽きねぇの?」
 毎日毎日、同じ時間同じ場所同じ動き。
いい加減、俺は飽きたってーのに。
「飽きない」
 アイツは手にした杖を握り締めたまま、振り向かずに答える。
まぁ、答えなんて期待してなかったけどな。
シカトか言われたとおり「飽きない」と返ってくると思ってたさ。
 でもな?
言わなきゃ俺が飽きたってことが伝わらないだろう。
「俺は飽きた」
 ここ数ヶ月、永延同じ狩場だぞ?
確かにここが一番効率が良いだろう。それは認める。
でも、来る日も来る日もマッチョな時計に殴られたり、どえらいスピードで噛みつこうしてくる本と戯れたりするのは俺的に3ヶ月が限界。
 おおぅ。よく考えてみれば、もう10ヶ月もここに篭っていることになる。
あっはっは、子供が産まれるね。俺とアイツの子かー……きっと将来有望な子だろうな。
「って、ナンデヤネン」
 現実逃避をしていた思考に、声を出して突っ込みを入れてしまった。
しかもアレだ。突っ込む時だけカンサイベンってやつ。うっわ、恥ずかしい。
「…」
 案の定アイツは、不審そうな目で俺を見てくる。
それに笑って誤魔化しながら(多分、誤魔化されて無い)俺は横に置いておいた杖を手に取る。
「そろそろSPも全快!」
 魔法を唱えるのに充分回復した俺は立ち上がる。
同じように座っていたアイツは俺を見上げると、普段の仏頂面が嘘かと思うくらいの笑顔。
「な、なんだよ」
 くそぅ、不覚だ。可愛いじゃねぇか。
「なんだ、飽きたんじゃなかったのか?」
 笑顔のまま言われれば、現実逃避する前に交わした会話。
「え、あ、や…うーん、まぁ飽きてるけどさ」
 鼻の頭を掻きながらアイツから視線を逸らす。
アイツの笑顔は心臓に悪い。あれ以上見てると、動悸息切れ眩暈でまた休憩しなければならなくなるだろう。
「飽きてるけど?」
 アイツも立ち上がって、俺や自分に支援の魔法をかける。
「もーすぐ、お互い二次職だからな。もちっと頑張るさ」
 知っている。分かっているんだ。
この狩場に初めて来た時には、お互い己の魔法以外に回復アイテムだのにも頼って、なんとか過ごしていた。
 今は、違う。
唱えられる魔法の数が、俺もアイツも格段に増えた。
休憩だって短くなった。

起きて顔洗って飯食って、それからいつもの時計塔。

毎日毎日、同じ時間同じ場所同じ動き。


それでも、俺達は確実に前へ進んでいるんだ。