職業、ブラックスミス。
年齢、26歳。
身長、180cm弱。
趣味、読書。
性格、適当主義。でも誠実で。

「今なら絶賛お買い得の三割引…いや、アンタになら半額でどう?…って、ことでヨロシクー」


 そんな自己PRと共に出された手を(勢いにつられて)握り返してしまったのは3日ほど前。
一体全体何を「ヨロシク」されたのかは分からないが、以来付き纏われている。
 今も剣士である自分の近くの木に寄りかかって本を読んでいる。
無言で移動してもプッシュカートのレベルも高いのか、遅れずに一定の距離を置きつつもついてくるし。
「………」
 3日の間に次第に深くなってきた眉間のしわに指を当てつつ、剣士は黙々と自分に寄ってくるモンスターの相手をしていった。
 以前は大人しかったらしいエルダーウィローも、今の時代では凶暴性を増して近づく人間を手当たり次第に襲ってくるようになった。
そんな場所にいるものだから、当然読書に勤しんでいるBSにも攻撃はされるわけで。 「…ッテ。イテテ」
 『ショコラでトレビアン』と表紙に書かれた本を片手に、反撃しようと武器を取り出す。
……何故か、クラブなんてものなんですけど。
 しかも未精錬なのか攻撃力が安定していない。が、腐っても二次職。
かなり楽にエルダーウィローを倒すとまたしても座り込み、本を開きだした。
 本を読みたいのであれば、こんな場所ではなく街にでも戻ればいいのに。
剣士はそう言ってみようかと思ったが、自分のほうにもエルダーウィローが近寄ってきたのでそちらに集中することにした。




「うーん! 今日も頑張ったねぇ」
 そろそろ帰ろうかと剣士が思い始めた頃に、BSが伸びをしながら言う。
手にした本のタイトルは何時の間にか『愛フォルテシモ』になっていた。
 剣士は己の修練を頑張ったし、BSは読書を頑張った、という意味の台詞なのだろうか。
「……お前さ、」
 3日目にして初めて剣士が自発的に話しかけてきたことに驚いたのだろうか。手にした『愛フォルテシモ』を地面に落としながら間抜けな顔をしている。
「別に、なんでもない」
 一体何が目的で自分に付き纏っているのか。それを今日こそは聞こうと思ったのだが。
「えー? 何、何ー?」
 収集品の袋を引きながら歩き出した剣士に駆け寄って話の続きを聞きだそうとする。
「なんでもないって言ってるんですけど」
 睨みながら言っても、このBSに効果がないことくらいもう知っている。
というか、自分に付き纏っている理由以外は大抵のことは3日間で分かったような気がする。
 出会い頭のご丁寧な自己紹介に加え、1日目は狩りにくっついていきている間中ずっと自分について語られた。好きな食べ物だとか、お気に入りの店だとか、自分の実家はジュノーにあるだとかだ。
 2日目は趣味の読書のことだ。今まで自分が読んだ本やこれから読みたい本、尊敬する作家の話などを延々と。
 3日目、つまりは今日は狩場で会うと同時に剣士から「今日は黙っとけ」と言われたので読書に専念していたようだが。
「そう? そろそろ俺に聞きたいことが出てくるかと思ったんだけどな…」
 BSの言葉に足を止める。
自分の質問が分かっていて答えをくれないのだろうか。
「俺に聞きたい質問はズバリ2つ!」
 顔の前にピースサインを突きつけられる。そんな得意げなポーズをとらせて悪いとは思ったが、否定させてもらうことにした。
「いえ、違います」
「え?! 2つじゃないのか?」
 じゃぁ、3つ?と何故か増える質問に、首を振って否定する。
剣士が知りたいのは、自分に付き纏っている理由だけであって、別段他の事を知りたいとは思っていない。
「えー…じゃぁ、アンタの質問にはこたえなーい」
 不満そうに唇を突き出して言うBSに、すでに質問する気が失せていた剣士は何も言わなかった。
 が、疑問が増えたことに眉間のしわを一層深いものにしたけど。
自分に付き纏っている理由と、BSに聞くべきことが2つ以上ということ。
 1つは現在自分が思っている理由だとは思うが、もう一つ(もしくは、1つ以上)がわからない。
多分、質問が2つ以上になるまではBSは答えをくれないのだろう。そんな気がする。
 無理矢理質問を作るか、とも思ったが今日はもう疲れたたし、BS自身が悪い人じゃなさそうなのでそう急く事は無いと街に向かって歩き出した。



「…ちぇー、まだ質問は1つかぁ」
 BSは剣士に聞こえない程度の声で不満を漏らす。
質問が1つ…少ないってことは、彼の自分に対する関心が低いということだ。
 くだらない事を3日間言い続けてきたが、彼がもし自分に関心や興味があれば2つ以上の疑問が浮かんでくるハズなのだ。
「わざと自己紹介で名前言ってないし、交際の申し込みの理由だって言ってないし、式の日取りだって……」
 ブツブツと言うBSの数メートル先には、自分の名前が刻まれたカタナを装備している剣士がいる。
 不完全な自己紹介から3日。出会いはそれより遥か以前。
引退を決意した日に再会した彼と、己の剣。
 空になったカートを引きながら、これから狩りに向かうのであろう彼の後を付けた時には何も考えてはいなかったと思う。
 これから銘が消える剣の持ち主を見たかったからかもしれないし、剣の扱われ方を知りたかったからかもしれないけど。
狩場につくと、剣士は鞘からスラリをカタナを取り出した。
 木漏れ日の中で鈍い光を放つそれは、確かに自分が鍛えたアイスカタナ。
両手で構え、初段で思いっきり振りかぶる。それが剣士の技でバッシュというものだとは知っていたが、自分の武器で繰り出されるその威力に鳥肌がたった。
 その時から、ずっと惹かれているのに。
「……これは長期戦かも」
 自分の尊敬する作家であるクリスチーネ剛田も著書の中で「恋愛に焦りは禁物」と書いてあることだし。
 いつかは、剣士に興味関心を持ってもらいたい。いや、持たせてみせると息巻いて、カートの取っ手を握り締めた。