森の奥にある、お屋敷は僕の家なのに。



「おい、ミドリ。お茶くらい出したらどうだ?」
 可愛い可愛い僕のハセの為ならば、お茶だろうとお菓子だろうとレア装備だろうとなんでも用意する気でいるんだけど。
 うん。それは、あくまでハセの為ならば、だよ?
「ほら、滅多に来ないお客様だろう」
 だから、ハセの為になら何だって用意するけどね。
僕はハセの隣に座ってあたりを見渡している人物に少しだけ視線を送った。
視線の意味は「お邪魔虫は帰って?」っていう可愛らしいお願いだったけど、この人ピクリとも気付いてないよ_no
 なんなの、この招かざる客は?
ハセはハセで、この人に構いっきりだし。あぁ、もう。そんな滅多に見せない笑顔を振りまかないで欲しいなぁ。
 …僕だってあんまり笑顔見てないんだぞ。
僕が不機嫌なのを気付きもしないで、ハセは僕の家のバラ園の素晴らしさを客人に話している。
 だいたい、ここは僕の家の僕のバラ園の僕のティーテーブルだし。更にいうなら、ここに座っていいのは僕のハセだけだし。
 ブツブツと文句を口の中だけで呟いている僕に痺れを切らしたのか、ハセが立ち上がった。
大方自分でお茶を入れにいったのだろう。何度もハセを招待しているから、勝手知ったるなんとかってやつだ。
 あれ?そうすると僕はこの招かざる客と二人きりで、このロマンティックなバラ園に取り残されることになる。…嫌だなぁ。
まぁ、ハセとこの…あぁ、名前なんだったけな?まぁ、いいや。この人とハセが二人きりなんてよりは全然ましなんだけどね。
 一番良いのは、この人が帰ってくれることなんだけどなぁ…。
ハセがいないことだし、この人射殺しちゃおうかな?
 でも、このバラ園でそんなことはしたくない。
もともとこのバラ園は、僕の曽祖父の物らしい。これは父に聞いたことだから間違いはないと思うけど。
 一度も会ったことのない曽祖父と、良く覚えていない母と、大好きだった父に敬意を表して、僕はここで殺生をしないことにしている。
 だから、この人……あぁ、もういい加減名前が覚え出せなくて困るんだけど。
ええ、と。確か、ハセが狩場で何度もお世話になったらしいんだ。この人に。
 だから、そのお礼を兼ねて、何故か僕の家に招待したってわけ。
…別に構わないんだけどね。ハセに会えるんなら。
 ぁ!そうそう、思い出したこの人の名前!
、だったかな。うん、確かそんな名前。
 クルセイダーとして長年修練を積んできて、(僕ほどじゃないけど)それなりに強いハセが、こんな如きにお世話になっているなんて全然信じられないけど。
 まぁ、この人…はハセの好みではないから、すっごく安心だけどね?
ハセはねぇ、僕みたいなちょーっと強引なタイプでないと駄目なんだ。
 だって、ハセってばすっごいシャイなんだよ?もうね、ちょっとでも触ろうものなら切りかかってくるし。
AGIカンストしてなければ、僕みたいなHPの少ないハンターはハセのバッシュ一撃でカプラ姉さん送りだよ。
「待たせたな」
 そんなことを考えていたら、ハセがお茶とお菓子を持って帰ってきた。
紅茶の湯気と甘いお菓子の香りが僕のハセを一層引き立てて良いカンジ(うっとり)
 あぁ、もう本当、さえいなければ!って思うんだけどねぇ。
「ミドリ?何、さんを睨んでいるんだ?」
 普段は鈍いくせに、こんな時ばかり鋭いハセの言葉に、僕は瞬時に笑顔を作る。
「えぇ?嫌だなぁ、ハセ。僕がこの人を睨むわけないじゃない」
 にっこりと音が聞こえそうなくらい笑ってやったら、ハセも安心したように自分が運んできた紅茶を僕の前にも置いてくれた。
 一口、ゆっくりとハセの入れてくれた紅茶を飲む。
……………。
 はっ!意識がちょっとコスモ(小宇宙)まで吹っ飛んじゃったよ。
ハセの入れた紅茶…らしきものを飲めるのは、世界広しと言えども僕くらいだよねぇ。
 もうね、低DEXだからとかそんなレベルの問題じゃないの。不味いとかそういうレベルの味でもないの。
…徐々に僕のライフが減っていっているのは、この紅茶の効果かな。
 さっき、を射殺しなくて良かったよ。
ほら、この紅茶のおかげで目の前のは青ざめ…いや、すでに土気色かな?うん、ともかく酷く苦しんでいるようだね。うふふふふ。
「? さん?この紅茶はお口に合わなかったのか?」
 ハセが申し訳なさそうに言うも、当人は口を開ける状態じゃないみたい。
僕とハセの間に入ると、こうなるんだよー?あっは、天罰てきめーん!
 さて、でも助けてあげないとね。だって、やっぱりこのバラ園で人が死ぬのは僕としては困るからさ。
「ハセ。どうやら、さんは具合が良くないみたいだから。客間に運んで寝かせてあげよう?」
 の顔色の悪さを見て、僕の提案に否を唱えるはずもない。ハセは深く頷くとを客間まで運んでいった。
その背中を見送ってから、僕は石碑に視線を落とした。
 このバラ園の中にある石碑には、多くの人が眠っている。
曽祖父と、僕の母。
 僕の父と、そして、父が本当に愛した人が。
石碑を撫でると、ザラリとした手触りが心地よく感じられた。

 ハセがお茶菓子で持ってきた砂糖菓子を一つ摘んで、僕はバラ園を後にした。