仲が悪い割には、良く一緒に狩りに出かけている。
だが、それはお互いの利害の一致があっているからだ。
念を押しておくが、二人は、決して、仲が良くない。
…今までは、ね。


「…今が、ずっと続けばいいのにな」
 手にしたグラスの中身を揺らしながら、プリーストは誰とも無しに呟く。
「はぁ!?」
 それを聞きつけたのは、そのプリーストの連れでガスマスクを被ったウィザードであった。
ガスマスクをしたままで酒を飲む根性、只者ではない。
「いや、だから。このまま時が止まればいいなぁ、って…」
 プリーストのグラスの中で氷が軽い音を立てる。
それをどこか遠くに聞きながら、ウィザードは内心物凄く焦っていた。

 (何? 何なんだ、コイツ。『時が止まればいいなぁ』ってドウイウ意味!?)

 女の子からなら言われても嬉しい台詞だが、同性のプリースト、しかも普段からいがみ合っている奴からイキナリ言われると不審以前に怖いだけである。

「…なぁ、お前もそう思うだろ?」
「へ?」
 焦りのあまりブクブクとストローで酒に泡を出していたので、あまり話しを聞いていなかったウィザードは間抜けな声を出してしまう。
「だから、お前も時が止まればいいなぁって思うだろって!」
「思いません」
 プリーストの言葉に思いっきり否定させて頂く。
現在、男二人で寂し〜く、侘し〜く、簡単な食事を済ませたところである。
ウィザードとしてはもう少し酒を飲んだら帰路につきたいと思っていたのだ。

 こんな奴と二人でいる時に時が止まってみろ。俺の人生もそこで止まるわアホ。と、ウィザードが思った時に、ふと嫌な仮説がたった。

(……もしかして…まさか…絶対にあり得ねぇとは思うけど……ほ、惚れられたとか?)

 ゴクン。
甘いはずの酒が嫌に苦く喉を通る。
ギ、ギ、ギ、と音が出そうなくらいぎこちなくプリーストのほうを見やれば、切なそうに眉を寄せため息なんぞを吐いていた。

(………い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!)

 心の中で絶叫しつつも、ウィザードは顔には出さなかった。
…そもそも顔に出してもガスマスクで分からないだろう、という突っ込みはこの際シカトさせて頂きます。

「…そうだよな…。お前には弟がいるもんな」
 プリーストは更に呟くと、手にした琥珀色の酒を一気に煽る。
そして、また溜息をつくと空になったグラスをテーブルに置き、おかわりを注文した。

(そ、そうだぞ! 俺には最愛の弟って存在がいるんだ!俺のことは諦めて、他に良い女…いや、男? を、探してくれ!兎も角、俺は駄目だ!!!)

「あーあ…、時間止まらねぇかなぁ……」
 新しいグラスを受け取りながら、またしても呟く。
「絶対に止まりません!」
 ウィザードが力を込めて言うと、プリーストは軽く睨んできた。
普段であれば睨み返すのだが、今日ばかりはそれができそうにない。
「なんだよ、少しくらい優しく同意してくれたったいいだろうが!」

(…俺に優しくされたいのか!!!!? 嫌だ!断る!俺が優しくするのは弟だけと未来永劫決まっているんだ!)

 ブンブンと頭を振って激しく否定する。
そんなウィザードから視線を逸らし、プリーストはまたグラスに口を付け始めた。
「あー…歳は取りたくねぇなぁ……」
「…はい?」
 頭の振り過ぎで世界が急回転しているウィザードの耳に、何やら突拍子も無い言葉が飛び込んできた。
「走るのだって息が上がるのが速くなったし……最近体型もなぁ…」
 ぶちぶち言いながらグラスを傾けている。
「……歳?」
「言うなぁぁぁあ!!!!!」
 わけも分からずウィザードが鸚鵡返しに問うと、プリーストが凄い形相で睨んできた。
「どうせ最近ビール腹さ! くそっ、だから時間が止まればいいとか思ってるのによぉ……。お前は弟の成長を見る楽しみがあるだろうが、俺にはもう時間が過ぎるのが怖いよ」
 言葉尻のほうは、弱弱しく呟くだけになったプリーストの言葉。

(えー、と? つまり、何? 腹が出てきたし、体力も無くなってきたし、で、『時が止まれば』?)

「あ、アホくさー……」
「てめぇ! お前だって後5年もたてば俺のように悩みだすっての!!」
 思わず呟いたウィザードの台詞に、プリーストが突っかかる。
「いや、俺は大丈夫」
 根拠の無い自信に満ちたウィザードに、プリーストが憐れな者を見る視線を向ける。
「……その油断が命取りだっての」
「なんだとー!」



 仲が悪い割には、良く一緒に狩りに出かけている。
だが、それはお互いの利害の一致があっているからだ。
念を押しておくが、二人は、決して、仲が良くない。

…今までは、ね。




……そして、これからも、ね。