狩りで疲れた身体を休ませるため、騎士の鎧に身を包んだ女性は近くにある大きな木の根元に腰を下ろした。
「……なーんか、嫌な予感」
 小さく溜息を吐こうとしてから、既視感を覚えてあたりを見回す。
「気のせい、かな?」
 疲れているのだろうか、と木の幹に身体を預けてからアイテムの入った袋を取り出した。
 人生のうち99%がソロと言っても過言ではないAGI騎士である彼女だが、今日はその残りの1%の幸運に恵まれた。
新しくギルドに入ってきた人とのペア狩りに行ってきたのだ。
 いつもと違う狩場。いつもの独り言ではなく、返事の返ってくる会話。いつもの3倍くらい楽しい戦闘。
 孤独と誤解が慣れっこになっている彼女…いや、AGI騎士全般からすれば、有頂天になって暴走してもおかしくない事態である。
「…いやー、今日は頑張ったわ」
 AIなんて辻以外で掛けられたのが初めてだったので、今日の相棒のモンクを置いていく勢いでダンジョン内を走り回ったのである。
 そのハシャぎっぷりのおかげか、それともペア狩りのおかげか、はたまた彼女のリアルラックのおかげか、今日の狩りではそれなりに黒字になったのだ。
「んっふっふ〜、これで憧れの装備まであとちょっとね」
 実は、欲しい頭装備があったりする。
やや人を見下した感じの性格と、男には負けないという彼女のポリシーのおかげで、ギルド内だけでなくどこへ行っても彼女は女の子扱いをされない。
 が、多少捻くれてはいても年頃の女性である。
外見には気をつけたいのだ。
「ヘルム+エラ+ケインとも長い付き合いだけどねぇ…流石に、ね」
 自分の隣に置いた、頭装備たちを一撫ですると、見たことのある人物が目に入ってくる。
 自分のギルドの古参メンバーであるバードが何やら深刻そうな顔をしてこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
 ……既視感?
つい先日も似たようなことがあったような…と、然程良くない頭をフル回転させている間にバードは騎士を見つけたようである。
 彼女を見つけると、物凄い勢いで駆け寄ってきた。
はっきり言うと、キモイ。
「あんた、ちょっと、人に駆け寄る時くらいスクラッチマスク外したらどうなのよ!」
 このバードは常に名射手のリンゴ…通称、矢リンゴとスクラッチマスクを装備している。戦闘時も街中でも、である。
 ギルドの面々からはすこぶる不評なのであるが、本人曰く尊敬する人と微オソロにしたかったとか何とか。
「そんな事はどうでもいいんです! うわーん!僕の話を聞いてくださいよぉぉぉぉ!!!!!!」
 スクラッチマスクの下のことろから水が出ているのを見る限りでは泣いているらしい。……よだれだったら、と思うと近寄りたくないが、声の調子からして涙とみて間違いないだろう。
「……なんか、ものすっごく既視感を覚えるんだけど。……まぁ、いいわ。話は聞くだけね?聞くだけよ?」
 唸るバードを座らせてから、ハンカチを差し出す。
それを受け取ってからスクラッチマスクの下部分を拭うバードに「そこをか!」とツッコミを入れたい衝動に駆られたが、曲りなりにも傷心しているらしい人に流石にできない。
 まだ鼻をすすっているのがマスク越しに聞こえるが、先ほどよりは落ち着いたのであろう。綺麗にハンカチを畳んで返してくれた。
 ……「素で返すんかい!」とかツッコミたい騎士の心情を無視して、バードは口を開いた。
「……振られました」
「はぁ?!!!!!」
 あんた好きな子がいたの?!ってか、本当にこの前も同じようなことなかったっけ?ってか、私の記憶が正しければ……。
「一目惚れした子と、結構仲良くなって…」
「ちょっと待って。その先を私に言わせて」
 真顔で話を中断させた騎士に、バードはハテナエモを出す。
「一緒に狩り行ったり、酒飲んだり、買い物したりして、良い雰囲気だったり?」
 騎士は記憶を一つ一つ呼び起こしながら言ってみた。
はは、まさかねぇー…なんて思いながらも。
「よく知ってますねぇ」
「マジかYO!!!!!!!」
 知るわけがない。大体、恋愛の話などはほぼ皆無のギルドだ。
「で、もしかして……同じ部屋で泊まるのをオーケイされて、そこで一世一代の告白?」
「見てたんですか?」
「見てねぇYO!!!!!!!!!!!」
 すでにツッコミになってますよ、とどこかで冷静な声がするがこの際シカトさせて頂くことにして。
 自分の記憶がおかしいのだろうか。と、騎士は思う。
あまりにも、話が似すぎである。ってか、全く同じなのでは?
「更に言うなれば……告白の相手って……お、…おとこ?」
 恐る恐ると言った感じで騎士が問えば、スクラッチマスクを両手で覆いながら
「もー、どこまで知ってるんですかー(*ノノ)」
 と、返ってきた。
ってか、その格好でそのポーズをとっても可愛くない…むしろ、キモイ。
「そうなんですよねぇ…。一世一代の告白が、どうやら通じなかったみたいなのです」
「…へ、へぇ」
 自分の記憶違い?それとも、ただの偶然? と、グルグル頭を悩ませている騎士をよそにバードは自分の体験を語りだした。
「こうなれば、僕の熱い気持ちを直に分かってもらおうと、押し倒したらぶん殴られましたよー。あっはっは…は、…はぁ〜_no」
「な、なんだってー!!!!!!!」
 一瞬聞き流してしまうところだった騎士は、思わず立ち上がってM○R風に驚いてしまう。
「ですよねぇ。VIT1なのに酷いですよねぇ、殴るの」
「SOKOじゃねぇYO!!!!! ってか、押し倒したのか!」
 騎士の所属しているギルドの古参メンバーなバードである。
「あぁ、正確に言いますと、足掛けて倒した後に圧し掛かったんですがね」
 つまり、騎士とは結構長い付き合いなのだ。
「いやぁ、実に惜しかったです」
「…………世の中、い、色々な人がいる……うん、いるんだよ……」
 まさか、こんな人だとは露ほどにも思ってはいなかった。
自分に言い聞かせるように呟いた言葉を、バードは何を勘違いしたのか物凄く前向きに捕らえていた。
「色々な人、ですか?………そうか!つまり殴るのは彼流の照れ隠しであって、僕を拒絶していたわけではないのですね!!!」
「はぁ?!!!!!」
 前々から、ネジが2.3本吹っ飛んでいるんじゃないかとは思っていたが、どうやら、2.30本のようである。
「ありがとう!貴女の助言は僕の心の暗闇を晴らすのに、充分な威力でした!! では、僕を待ちわびているであろう愛しい人のもとへ行って来ますね!」
「ぇ? ちょ、ちょっと待っ――――――」

 古参メンバーが強●魔予備軍でした、というのはギルド脱退の大きな理由になるかしら? と、見知らぬバード曰くの愛しい人に手を合わせながら自分の今後を考えていた。


「とりあえず、南無ぅー;;」