「それで? それで、どうなったの?」

首都から離れた小さな港町。その中でも一等みすぼらしい家に兄弟は住んでいた。
 両親はすでに亡く、自分達と小さな弟が生活していくには大聖堂から出ている補助金だけでは足りなかった。

「もちろん、その一行は無事に家に帰れたさ」

 少しでも家計の負担を減らそうと冒険者になった兄は、たまにしか帰れないことの埋め合わせのように幼い弟が眠りにつく前には本を読み聞かせた。
自分が家にいる間は、毎晩である。

「よかったー! ちゃんとかえれたんだね」

「そうだぞ。ちゃんと、大切な人のところに無事帰れたんだ」

 一つの冒険話を読み終わり、兄は弟の布団をかけ直してやる。
そろそろ夜も深い。寝ないと明日に響くだろう。

「さて、お話はこれでお仕舞い。そろそろ寝たほうがいいな」

「ねぇ、おにいちゃん」

 電気を消して、自室に戻ろうとドアノブに手をかけた時、目を瞑ったはずの弟から声がかかった。

「ん? どうした?」

 少しドアを開けると、廊下からの光で弟の顔が良く見える。
その明かりに少しだけ目を細めると、弟は逆光になってよく見えない兄の顔を見た。

「ぼくね、おおきくなったら…ぼうけんしゃになるよ」

 そしたら、おにいちゃんのパーティにいれてね。
それだけ言うと、瞼が閉じてしまった。

「……おやすみ」




手にした本は、今夜で全て読み終わってしまった。


だが、物語は終わったわけではない。










これで おしまい…?







いいえ


これが はじまり