ミッドガッツ王国首都プロンテラ。
道々に軒並んだ商店や行き交う冒険者で賑わうのは毎日のことである。
 その喧騒を楽しんでいるかのように笑みを絶やさずにいるテンマは、雑踏の中に知り合いの顔を見つけて軽く手を振った。
「よぅ!イーロン、二日酔いかぁ?なっさけな!」
 テンマに気付いたプリーストが、頭を押さえつつ近づいてくる。
「うっせぇな・・・・。大声出してんじゃねぇよ、馬鹿テンマ」
「はっは、相変わらず酒弱いねぇ、お前。たった3時間で潰れんなよなぁ」
 3時間も呑み続けられれば充分じゃねぇかよ、と思うのではあるが頭痛と眩暈のため反論する余裕が今のイーロンには無かった。
 唯一テンマに意見を言い続けているイーロンの反論が無い。よほど二日酔いが辛いのだろうと中りをつけたテンマは、自分の露店から最近取り扱いはじめた集中のポーションを取り出した。
「おらよ、飲め」
「・・・・悪ぃな、いくらだ?これ」
「気にすんなよ、俺の奢り。今日の俺は機嫌がいいの♪」
 これ飲んだら後でどんな無茶なお願いをされるんだ?と訝しげにポーションを見ていたイーロンだが、頭痛が酷くなってきたので仕方なしに口をつけた。
 以外にあっさりとした飲み口に幾分か頭の痛みも和らいだ気がする。
「あ〜、ちょっと楽んなった〜」
 そう言いながらテンマの露店に並べられている物をいじくり出す。
「おい、人の店のもんにてめぇの手垢つけんなよ」
「いいだろ!今の俺は客。お客さんだ。分かるか、俺は消費者様だぞ?もっと敬え」
 気分が良くなった途端尊大な態度になったイーロンに「ポーションあげなきゃ良かった」と少し後悔しつつ、自称お客様の相手をする。
「えー、ではお客様。これなんて如何でしょう?二日酔いで眩しい太陽の光。耐え難いほど辛いものでしょう。しかし!これがあれば大丈夫。ババーン!ただのサングラス〜(ドラ○もん口調で)」
「あ〜ら〜良いわねぇ(おばちゃん口調で対抗)ちょっとかっこいいお兄さん、それお幾らかしらぁ?」
「今なら、なんと友人価格!・・・・・・・・・あー、いいや。これもやるよ」
 テンマの言葉を聞いた瞬間、目の見開きイーロンは後ろに引く。
「お、お前、何者だ?!お前はテンマじゃない!俺の知っているテンマは自分勝手で我が侭でジータを奴隷のように思っている鬼悪魔、いや姫プリみたいな奴だぞ?間違っても俺に優しくしたりなんかしない!」
 さぁ、正体を現せ!と本気で言うイーロンに「俺って、そう思われてたわけ?」と多少なりともショックを受けたテンマであったが、自分の普段の行いを振り返ってみると、確かにイーロン達に親切に接したことはなかったかもしれない。
「・・・・言ったろ?今日の俺は機嫌が良いんだって!ツベコベ言わずに有り難く貰っとけ。そして毎日神棚に飾れ」
 こんな物言いで納得したのか、素直にサングラスを受け取ると早速掛けてみる。
その具合が気に入ったのか、嬉しそうにイーロンが言う。
「なぁ、マジでこれ貰っちゃっていいのか?後で返せとか言われても返さないからな?」
 一応確認、といった感じで言うのに対し、テンマは気にした風でもなく手を軽く振っただけだった。
「うぉあ?!いけね、俺食料の買出しに来てたんだっけ!」
 突然イーロンが叫び出す。その内容に、昨日トイの祝賀会で愚痴っていたことを思い出す。
「あぁ、お子さんにヨロシクな〜♪」
「身に覚えはあるが、あんなに育った子供なんて在りえねぇっての!」
 とんでもない内容の台詞を叫びつつ聖職者であるイーロンは本来の目的である食材の買い物に向かっていった。




「あ?テンマ、今のイーロン?」
 突然後方で声を掛けられて、驚いてテンマは振り返った。
そこには先日帰ったばかりの祝賀会の主役がいた。
「なんだ、トイか。驚かすなよ。そ、今までやかましく営業妨害をしていたのが、我等がプリースト様のイーロンだよ。」
「我等が財布様、の間違いだろ?」
 ニヤリと笑うトイにテンマもつられて笑みを濃くする。
「酷い言い方だねぇ、それ。しっかし、本人気づいて無いみたいだぞ?」
 イーロンが消えていった方向に視線を向けつつ、テンマは煙草に火をつけた。
トイもテンマにならって視線を動かすと、声を出して笑う。
「マジ?あれだけ飲み食いした代金、全部イーロンの財布から出したのになぁ」
 ククク、と喉をならしながら昨日の状況を思い出す。
当初はジータが奢る予定なっていたのだが(なっていたのか?!)頑なに拒否されたため、先に寝てしまったイーロンの財布から多少(全額)失敬したのである。
「いやぁ、流石に良心が痛むから、さっき集中のポーションとサングラスあげといた」
 明らかに金額が違うような気がするが、会話をしてるのがテンマとトイである。
ここにジータでも居れば多少違った会話展開が望めたかも知れないが、居ないものは居ないのだ。
「あぁ、それでチャラだな」
 あっさり。









 教訓。
普段、辛辣な態度の友人が突然の優しさを見せた場合、多くは疑ってかかったほうがいい。