普段から音も無く歩いているのだが、今の足取りはいつも以上に軽い。
 目の前ではしゃぐアサシンを見ながら、溜息を一つ。
はしゃぐ、と言っても、顔は無表情だし、声だって地を這うように低いのだが。
それでもアサシンが喜んでいるのが分かってしまう自分に、少しだけ嫌気を感じながらクルセイダーは口を開いた。

「おい! はしゃぐのも良いが、あんまり無茶するんじゃないぞ!」

 自分よりも少し前を歩くアサシンが振り向く。
そして不機嫌そうに目を細めると、クルセイダーを置いて歩いて行ってしまった。

「おーい! 人様にだけは迷惑かけるんじゃないぞー!」

 子供扱いされることを嫌う彼を知っているのだが、こればかりは言うのを止められない。
何しろ、自分達の出会いというのが、アサシンが他の冒険者との揉め事が殴り合いに発展しそうだったのを止めたのがクルセイダーだった、というものだった。
その揉め事というのが、100%アサシンに非があるのだから、仕方ない。
 なんで、そんな問題児とクルセイダーが一緒にいるかは……まぁ、人の好みなんて説明のしようが無いとだけ述べておこう。

「…さて、と」

 クルセイダーは抜刀すると、自分に向ってくるモンスターに切っ先をむける。
アサシンが何処まで行ったのか分からないが、それまで自分がここを動くわけにはいかない。
 死者の街、ニブルヘイム。
今日も冒険者と生きてはいない者で賑わっている街だ。
 グランドクロスを習得して以来、この街がクルセイダーの狩場になっている。
技との相性も良かったし、何よりも相方であるアサシンが、この狩場を殊更気に入ってしまったから。
 無表情で無愛想で無口な彼が示した興味に、クルセイダーが否と言える筈がない。
それが例え、彼の少々普通とは言えない興味でも。

「……だから、無茶をするなと」

 言ったじゃないか、と最後まで言うことはせず、クルセイダーはグランドクロスの詠唱に入る。
一際賑やかな足音が近づいてくる気配に振り向けば、そこには相方であるアサシンが一人。
………その後方に、彼を追いかけているのであろうモンスターが両手で足りないほど。
 詠唱を中断させるわけにはいかないので、クルセイダーは目だけでアサシンを嗜めると、彼の眉間にも皺が刻まれた。
自分は悪くない。とでも言うような仕草に呆れてしまう。
 ここまで大規模なトレインなんて、無茶以外の何者でもない。
人のいない時間帯で良かった、と少し思うも、それでも迷惑になっていないだなんて思わない。
後で叱っておかねば、などと躾の出来てない犬か、やんちゃ盛りの一人息子を持つ母親のような事を考えていると、詠唱が完成する。

「…、グランドクロスッ!」

 十字に光る地面と、それによって身体が朽ちていくモンスター達。
耳障りな悲鳴が響く中、一撃では仕留められなかったモンスターがクルセイダー目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
それを避けることなどせずに、己に振り落とされるであろう凶器を見る。
 どうせ、その凶器はクルセイダーには届かない。
足取り軽く、空気を切り裂くように、まるで舞でも踊るかのように、アサシンがモンスターとクルセイダーの間に入る。
そして身体を反転させるように腕を回すと、モンスターの胴を上下に離す。
 その胴の上部分が地面に着くよりも早く、アサシンは次の獲物に向っていく。
クルクルと自分の周りを移動するアサシンを目で追いながら、クルセイダーはヒールを唱える。
グランドクロスにより負った自らの傷に、ではなく、段々と赤の線を身体に刻むアサシンに。
 幾ら彼がアサシン、素早さに特化した職業であれど、これだけの数のモンスターを相手にして攻撃を全て避けられるわけがない。
それでも。
 無表情で無愛想で無口な彼が、この時ばかりは楽しそうに笑うのだから。
だから、この狩場から出ることができない。

「…お前さ、もう少し抑えろって」

 モンスターの全てを倒すと、溜息混じりに言う。
アサシンが強いのは知っている。自分が回復をしていれば、余程のことが無い限り、倒されることは無いだろう。
だが、アサシン自ら『余程のこと』を作り出そうとしているのだ。苦言だって言いたくなる。

「無、理」

 足元に転がっているモンスターが落とした収集品を蹴りつつ、小さくアサシンが答える。

「……だって、2日、ぶ、り」

 首都プロンテラであった枝テロに巻き込まれ、怪我こそ大した事はなかったのだが、回復アイテムを全て使い果たしてしまったのが2日前。
休養だと思うことにして、その間は狩りはせずに、ゆっくりと買い物や友人達との談笑などで過ごしていたのだが。

「あぁ、そう」

 アサシンには退屈な2日間だったらしい。
それもそうだ。
だって、彼の興味は、穏やかな街にはない。
 死者の街、ニブルヘイム。
命を落とした者達と、命をすり減らし生きている者達が集う街。
彼の興味は、そんな剣呑とした街にしかないのだから。

「……ま、た、連れて、く、る」

 無表情に呟くと、再びクルセイダーに背を向けて歩き出す。
小さく溜息を零すと、クルセイダーは心の中だけで『次はモンスターの量が減っていますように』と無駄なことを祈った。
 そう、無駄なことだ。
複数のモンスターに囲まれ、命のギリギリのやり取りにしか興味の無い彼が、処理できると判断した数のモンスターで妥協するはずがない。
無表情で無愛想で無口な彼が、唯一嬉しそうに笑う瞬間が、死にそうな時だけだなんて。

「あぁ、大変なのに惚れたもんだ」

 呟くと、先程アサシンが蹴っていた収集品を拾った。









 











1年ほど前にリクエスト頂いたクルセアサ。
本当はニブルヘイムで戦闘後、SMちっくな18禁(女王様アサ)なクルセアサだったんですけども。
無理です。
無理でした。
1年間悩んで、出した結果がコレでした。
クルセとアサの、ただの狩り風景です。
これが最大です。無理です。18禁なんて、本命カプですら書けません。
1年間待たせた挙句、妥協な代物ですが、リクエストしてくださった方に捧げます(その人、うちのサイト知らないけどねー!)