小柄な剣士は、頬を膨らまして「機嫌が悪いんです!」という感情を隠しもしない。
それに、苦笑しつつも商人の少年は、剣士には何も告げず、先ほどまで一緒にダンジョンに行っていたメンバーを振り返る。
「今日は、本当お疲れ様」
 笑顔で言う商人に、メンバーも次々に「お疲れ」と口を開く。
臨時で募集したメンバーであったが、暴走する人も、役割を果たさない人も居ずに、とても気持ちよく動けたと思う。
「あ、そうそう」
 商人が、思いついたように自分の鞄から白ポーションを出す。
冒険者といえども、まだまだ駆け出しの一次職である。
効果の高いそれは便利と分かっていても、値段の面から中々手が出し難い回復剤である。
 その白ポーションを手にすると、商人は自分の近くに居たマジシャンの少女に差し出した。
「はい」
「え?」
 目の前に出された白ポーションに目を丸くするマジシャンの顔を見て、商人は小さく笑うと、更に近くにポーションを差し出した。
「今日、楽しかったし…助かったから、そのお礼」
 渡す理由を商人が告げると、納得したのか、でも、まだ戸惑いがちに、マジシャンは白ポーションを受け取った。
「ありがとうね」
 受け取った後も、笑みを深めて礼を言う商人に、マジシャンの少女は赤くなりながら「こ、こちらこそ!」とだけ告げると俯いてしまった。
「皆も、記念だと思って受け取ってよ」
 次々に鞄から出す白ポーションを見ながら、剣士の頬の膨らみが大きくなっていくの気付いたのは何人か。
「はい、君にも」
 最後に商人が手渡しに来たのは、頬を膨らませた剣士のところだった。
「……」
 チラリと白ポーションを見るが、剣士は受け取ろうとはしない。
それどころか、今度は眉間に皺まで寄せて「更に機嫌が悪くなったんです!」というのをアピールしている。
「困ったな……受け取って貰えない?」
 笑顔は崩さずに、でも困ったような声色で商人は問いかけてくる。
周りの人たちも、何故剣士が受け取らないのかという雰囲気になってきてしまった。
「………だ、だって」
 剣士とて、今日のメンバーに腹を立てて不機嫌だったわけじゃない。
実際、今日のメンバーは『当たり』な人たちだと思っていた。
 でも。
 それでも。
「お、おれは、物には、つられない…!」
 小さく呟くと、剣士は目の前にいる商人を睨むと、ダッシュでその場を後にした。


「…? 白ポ、便利ですのに」
 マジシャンの少女は剣士の走り去った方角を見ながら、不思議そうに首を傾げた。


その剣士の突然のダッシュに驚いた面々に、商人の呟きが聞こえなかったのは幸いなのかもしれない。




「………ちっ、意地っぱりめ…他人に優しくするのが気に食わないと素直に言えば良いものを…」