台詞で6題
配布もと:0501

 

 

 

 

 



 



目の前で、笑顔全開!朗らか全開!爽やか全開!という雰囲気を纏ったプリーストがいる。
プリーストが、いる。
………別に、変な話ではない。
ここは、首都の大通りで、自分や、他の商人たちだって店を出しているのだ。
プリーストが、いる。
別に、変な話ではない。
 変なのは、そのプリーストが自分の顔を見ながら(しかも笑顔で)動かないことだ。
品物を見るわけでもないし、値切りの交渉をするわけでもない。
プリーストが、居る。
とても、変な話だ。
 アルケミストは少しだけ眉を顰めると、目の前のプリーストにも少しだけ変化があった。
ちょっと驚いたように、眉を上げて、その後すぐに嬉しそうに、頬なんて染めてまた自分を見る。
プリーストが、居る。
 そろそろ、この『プリースト』っていう名詞の前に『変な』とか『おかしな』とか、そういったものを付けても良いのかもしれない。
アルケミストがそう思いはじめた頃、大きな音を立てて何かが近づいてきた。
音のほうに顔を向ければ、砂煙。
 多分、何かが走ってきているのだろうと思うが。
首都の整備された道で、果たしてあんなに砂煙があがるものだろうか?
というか、その砂煙はこちらに向かってきてないか?
 アルケミストの思う通り、砂煙は近づいてきている。
近づいてきて…目の前で止まった。
 砂煙の主は、クルセイダー。
グランドペコに乗っている姿は勇ましく、『あぁ、これで走れば砂煙も出るかもしれない』とアルケミストはのんびりと思った。
クルセイダーはペコから降りると、アルケミストに深々と頭を下げるといきなり謝りだした。
「すみません!ウチの馬鹿がご迷惑をおかけしまして!!!」
 あまりの勢いのよさに、アルケミストはビックリしてしまう。
なんだろう?と思う。
このクルセイダーは、何を言っているのだろう?と。
「ほら!お前も謝れ!」
 そう言うと、クルセイダーは目の前で幸せそうに笑うプリーストの頭を掴み、力任せに下げさせる。
「うわっ?!」
 それに驚いたのか、プリーストは焦った声を出す。
そんな二人の様子を、アルケミストは静かに眺めていた。
 あぁ、なるほど。クルセイダーさんは、プリーストさんとお知り合いだったのか。
そんなことを思っていると、プリーストの叫びに近い声が聞こえてきた。
「ちょ、お前何時の間に来たんだよ?! ってか、なんで俺謝るわけぇ?」
 どうやら、あの派手な音と砂煙に、プリーストは気づいてなかったらしい。
「アルケミさんの商売の邪魔してて、何偉そうなこと言ってるんだ!ほら、謝れ!」
「そーだぞー。な、『ごめんなさい』は?」
 怒るクルセイダーの影から、ひょっこりと出てきたセージが押さえられているプリーストの頭をヨシヨシと撫でる。
「お前ら…!俺が何時、この人の邪魔したって言うんだ?!」
 謝る理由が思いつかないと言い返すプリーストに、アルケミストは少し首を傾げた。
それから、口を開く。
「邪魔です」
 その瞬間に流れた空気を、どう形容していいか。
一瞬氷ついた場に、アルケミストの隣で店を出していたBSは、こう語る。
『俺、一瞬あれ、ルティエ着ちゃった?とか思った。…ってか、アイスウォールに閉じ込められた時と同じ感覚だったぞ』
 BSと同じように、いや、もしかしたらソレ以上の効果で固まっているプリーストの頭を撫でながら、セージは笑顔で一言。

「強制撤去しまーす」

 言葉どうり、固まったままでペコに引きづられていくプリーストと、その横で少し同情めいた視線をプリーストに向けているクルセイダー、始終楽しそうに鼻歌まで歌いだしたセージ。
その三人を見ながら、アルケミストは思う。
『変な』とか『おかしな』という形容詞をつけるのは、プリースト単体ではなくて、あの三人にすべきかな。と。































 



いつものように、夕飯を食べに着てみれば、そこには暗雲を背負ったギルドメンバーの姿。
「何、これ?」
 ウィザードが何かかわいそうなものを見る目で、そう呟けば、暗雲の近くに座っていたクルセイダーが苦笑しながらも答えてくれた。
「先日こいつが言っていたじゃないか。その相手に『邪魔』って言われてな」
 先日。
そう、つい先日だ。
 酒に酔ったこのプリーストがヘラヘラ笑いながら「実はさー、最近俺変なんだよね」とか言い出したのは。
何が変かと問うてみれば、どうやら好きな相手が出来たらしい。
 なるほど。
その好きな相手に「邪魔」などと言われれば、暗雲だって背負いたくもなる。
「…ますたー、俺に涙忘れるカクテルを作ってくれよぉ」
 暗雲の下のほうから声がする。
「俺、マスターじゃねぇし」
 ウィザードはそう冷たく答えると、自分の為に用意されていた夕食を食べるべく、席につく。
「ちょっと聞いてよ神様、俺ってばもう人生終わっちゃったかもしんないの」
 今日の夕飯も豪華だな、と思いながらスプーンを手に取るウィザードに、暗雲の下から声が聞こえる。
「俺、神様じゃねぇし」
 先ほどと変わらぬ口調で答えてみれば、暗雲からシクシクと悲しそうな音が聞こえてきた。
暗雲は雨雲だったらしい。
「…何、こいつ、もう酒入ってんの?」
「………かなり」
 クルセイダーが困ったように答えると、雨雲がモソリと動き出した。
「もう、会えない……」
 ぐず、と、鼻を啜ると、雨雲……プリーストは立ち上がり、自分の部屋へと戻る為に歩き出そうとする。
その手を、面白そうにしていたセージが掴む。
「何言ってるの? 明日、また会いに行かなきゃ」
 にっこりと笑顔で言うセージの言葉に、プリーストが振り返る。
実は、ウィザードはこのセージが苦手である。
いつも笑っていて何を考えているか分からないし。
いつもふざけていて、何を思っているか分からないし。
「だって、君、まだあの子に謝ってないじゃない」
 それに。
「それに、君はあの子を諦められないんだろう?」

 それに、たまに言う言葉が真っ直ぐで重くて、厳しいからだ。


だから、ウィザードはこのセージが苦手なのである。






























 



いつもの場所。
 アルケミストは、いつも決まった場所で商いをしていた。
そのほうが贔屓のお客さんがついてくれるんだよ、と教えてくれたのは、まだ自分が商人だったころにお世話になっていたアルケミストの先輩だった。
長い赤毛を一つに結った大人しそうな彼女も、いつも同じ場所で店を出していた。
 そういえば、彼女の店には、いつも同じような顔ぶれが訪れていたような気がする。
自分も、そういった顧客を得るために同じ場所で商いをしている。
最も、別の場所を探すという手間が嫌だったという話が無きにしも在らず、だが。
「……あ」
 そう、自分は顧客が欲しいのだ。
馴染みの客。
でも、その名詞の前に『変な』とか『おかしな』はいらないんだけどな。
「ご」
 速度増加がかかっているのだろう。物凄い勢いでアルケミストの露店の前に現れたのは、先日のプリースト。
くりくりとした巻き毛と合うベビーフェイスだが、身長をいったらアルケミストよりも遥かに高い。
そんな特徴的なプリーストを、忘れるわけがない。
「ご?」
 現れるなり『ご』と呟いたきり止まってしまったプリーストを不審に思いながら、アルケミストも呟く。
「ごめんなさい!!!!!」
「はい?」
 いきなり謝られた。
それもまるで先日のクルセイダーかのように。
アルケミストは驚いて、何を返せばいいのか分からず黙っていると、下げたのと同じくらいの勢いで上げられた頭の持ち主が勝手に話し出す。
「あ、あの、本当にゴメン! 俺、昨日の何が貴方の邪魔になってるか、本当は今も分かってないんだけど。でもゴメンな?」
 分かってないのに謝っているのか。
と、アルケミストは思ったのだが、勢いに押され、尚も何も言えないでいる。
そんなアルケミストをどう勘違いしたのか、プリーストはいきなり項垂れた。
「……本当、ごめん。もう、さ、近づかないから……で、でも」
 何故か目に涙まで浮かべている。
「と、遠くからなら…眺めてていいですか?」
 台詞の後半は、泣きながらの為全ての音に濁音がついていた。
アルケミストは思う。
「……それも、嫌ですねぇ」
 違った。思っただけでなく、声にまで出していたようである。
「い、嫌……?! お、俺、嫌われた…??」
 ぶわわわわわ、と音がしそうなほど涙が溢れてくるプリーストに、よく『おっとりしている』と言われるアルケミストも焦る。
「あ、あのですね?」
 自分よりも背の高いプリーストの服を引っ張り、目線を合わせる為に座らせる。
「別に、貴方が嫌いとかじゃなくて…!」
 その言葉に、プリーストの涙が止まる。
それに、少し安心したアルケミストも、落ち着いて言葉を選びながら話す。
「昨日、邪魔だと言ったのもですね、貴方の後ろで、ウチの商品を見たいような動きをしている方がいらして」
 プリーストも、昨日クルセイダーが言っていたことを思い出す。
確か、『営業妨害』とか言っていた。
「ご、ごめん!」
 それに気づいたプリーストは、自分の失態に顔を赤らめながら再度謝る。
今度は、何に謝ればいいのか気付いたいう感じが見てとれるプリーストに、アルケミストは、尚も話す。
「流石に目の前では困ってしまいますので」
 一旦そこで言葉を区切り、アルケミストは少し腰を浮かして右側に寄る。
アルケミストの左に出来たスペースを、ぽんぽんを叩きながら。
「横にしませんか?」
 と、笑顔で。
アルケミストの隣で店を出していたBSは、こう語る。
『いや、どこからか知らないんだけど、アンゼルスの鐘が鳴り響いたんだよ。しかも何度も。で、何故か天使とかラッパ吹いてんのが見えんの。俺、一瞬お迎えが来ちゃって天国行くのかと思った』
 BSと同じように、アンゼルスの鐘を聞いているプリーストは、一瞬でアルケミストの隣に座る。
その隙間、約20cm。
どうやって理由をつけてその隙間を埋めるか。
その隙間を埋める行動を数日繰り返すプリーストに「何さり気無く密着しようとしてるんですか?」とアルケミストが問うのは、もう少し先の話。































 



 ここ数日、プリーストの様子がおかしい。
落ち込んでいるかと思えば、いきなり機嫌が良くなって鼻歌をうたいだしたり。
頬を染めてヘラヘラしてるかと思えば、真剣な眼差しで書物を読み漁ったり。
 様子がおかしい。
「よーし、じゃぁ、今日は飲みに誘おう」
 何がどうなってそんな話が出てきたのか、クルセイダーはセージを見る。
見られたセージは視線を気にすることなく「静かに馬鹿騒ぎできるところが良いよね」と、わけの分からないことを尚も言っている。
「お酒ってね、口を軽くする効果もあるんだよ」
 と、最後に言って、初めてクルセイダーはセージの行動に納得したのだった。






「はーい、じゃぁ、かんぱーい!!!」
 と威勢良く手に持ったジョッキを高く上げたのは、言いだしっぺのセージである。
「…お、お前、それ何回目の乾杯だよ…」
 クルセイダーが力なく呟けば、ザルで有名なウィザードが「24回目だな」と冷静に言う。
その数に少し気分が悪くなりつつも、横目で例のプリーストを見てみれば、上機嫌でフラフラしてる。
聞くなら、そろそろかもしれない。
「なぁ、最近のお前、なんか変じゃないか?」
「わお、ストレート」
 クルセイダーの直球な物言いにセージが突っ込む。
それを綺麗に無視しながら、プリーストからの返答を待った。
 プリーストは赤い顔で座っているのにも関わらずユラユラと揺れている。
多分、突付けばそのまま倒れてしまうだろう。そんな感じだ。
「えー? えー? 俺ぇ?」
 しまった。
酒は確かに口を軽くするかもしれないが、脳みそまで軽くしてしまう。
 舌ったらずな話し方になっているプリーストに、クルセイダーは少し眉を顰める。
しかしセージはそんな話し方に頓着はしないらしく、普通に話を促した。
「そーそー、君だよ」
「う〜ん、あのねぇ、最近俺、変なんだ」
 いや、知ってるよ。
と、クルセイダーは思ったが声には出さず。
「なんでだか分からないけどー、気になる人ができて」
 この台詞には、声がでなかった。
「へー、気になる人って? 知り合いなの?」
 声の出ないクルセイダーに変わって、質問をしているのはセージ。
全くそういった色恋沙汰に縁の無かったクルセイダーよりは、免疫があるらしい。
「ん〜? 知り合いじゃないよ。でもね、良く会うんだ」
 プリーストは何かを思い出してるのか、口元が緩みきっている。
「気になるなら、声をかけてみればいいじゃないか?」
 今までは只管食べ物を胃袋に詰める作業に夢中だったウィザードも、会話に参加する。
…まぁ、24回もの乾杯の間中ずっと食べていれば、流石にお腹も膨れるものだろう。
「んーー、あのね、俺ね、変なんだ」
 今、会話になってたか?と目線だけでウィザードがクルセイダーのほうを見る。
が、未だに立ち直ってないクルセイダーは軽く首を振るだけで、結局はこの酔っ払いプリーストの次の台詞待ちということになった。
「えーと、普通だったら、気になったら声かけて、知り合って、告白して、お付き合いして、結婚でしょ?」
 結婚までいくのが普通なのかどうかは分からないが、とりあえず話しの腰は折らないほうが良さそうである。
「でもね、俺ね、変だから。気になってるんだけど、話掛けれないでね」
 そこで、一旦言葉を止めて、目の前のグラスを一気に煽る。
空になったグラスを近くを通った店員さんに渡し、おかわりのトロピカル・ソグラドを注文する。
酔っ払っていて言葉も身体もフラフラなのに、その注文をする動きだけは慣れたものなのが不思議なところだ。

「遠くからこっそりと眺めたり、後つけて家とか調べたりしてる」

「それストーカーだぞ!」
「ふふふ、情熱的だね」
「店員さん、ソードフィッシュの素揚げも追加で」
 プリーストの言葉に、三人三様の反応を示す。
一番上が、常識人クルセイダー。
二番目が、笑顔のセージ。
最後が、食べたものがどこに消えてくのか分からない奇跡の胃袋を持つウィザードである。
「それにね、俺ね、変だから」
 三人の反応にも無関心で、酔っ払いは尚もしゃべる。
「お前が変な奴なのは皆知ってるし」と、そろそろ声を大にして言いたいクルセイダーだが、言ったところで一度話し始めてしまったプリーストは止まらないのだろう。
そもそも聞き出したのは自分だと、覚悟を決めるしかない。
 しかし。
次の言葉で、クルセイダーの覚悟は脆くも崩れることになる。


「気になる人って、同じ性別の人なんだよね」








と、いうことがあったのが1ヶ月ほど前。
「もう遠くから見るのは、やめる!」と豪語して、ギルドの溜まり場からプリーストが走り去ったのが5時間前。
その話を狩りから帰ってきた常識人クルセイダーが、笑顔のセージから聞いたのが5分前。

とあるアルケミストの前で、幸せそうに笑うプリーストを見つけるまで、あとちょっと。































 



天変地異の前触れなのだろうか。
 件のプリーストが、ここ数日風邪を引いて寝込んでいる。
正確に述べれば、きっかり2週間だ。
「で、様子はどうだったの?」
 いつも通りの笑顔で問うセージに、クルセイダーは飲んでいたミルクをテーブルに置く。
幼い頃から平均よりも少しだけ低い身長を気にしているクルセイダーは、もう無理だと分かっているのにも関わらず無意識に選ぶ飲み物がミルクなのだ。
「どうも何も、もうほとんど普通の状態に近かったぞ」
 2週間きっかり家に閉じこもっているプリーストの様子を、クルセイダーが見に行ってきたのだ。
「…ふーん?」
 クルセイダーの回答にセージは目を細めると、まだ半分以上ミルクが残っている瓶に視線を移す。
そういえば、今日はミルクを売っていたっけな。と、セージは思い出す。
「そっちは、どうだったんだ?」
 問われた質問に、セージは視線を上げると小さく笑う。
「ふふ、普通だったよ?……多分、ね」
 クルセイダーがプリーストを見舞っている間、セージはアルケミストの様子を見に行っていたのだ。
「多分、か」
 セージの返答に、クルセイダーの眉がよる。
丁度きっかり2週間前、まだプリーストが元気に片思いの彼の露店に通っていた時のことである。
 朝一番にアルケミストの元を訪れるのが日課になっているプリーストが、彼の目の前に現れた時。
運が悪かったのだろう。いや、もしかしたら、日頃の行いが悪かったのかもしれない。
良く周りの人間から『おっとりしている』と言われるアルケミストが、足元の小石に躓いたのだ。
運が悪かったのだ。そして、多分、日頃の行いも。
 転んだアルケミストが引いていたカートが、見事に引っ繰り返り、中身が、プリーストにストライク。
運が悪い。日頃の行いもだ。
 カートの中身が綿毛だったとしよう。フワフワしているのだから、痛くもないし、拾い集めれば商品にもなるだろう。
何もかもが悪かったのだ。
 カートの中身は、聖水・ポーション各種・アイス・フロストダイバーLv5だった。
可哀想なことに、フロストダイバLv5は発動しプリーストは凍ることになる。
そんなことがあった、丁度きっかり2週間前。
 以降プリーストは風邪を引き、寝込んでいるのである。
「もしかしたら、アルケミさん……風邪の原因は自分だって責任感じてるんだろうか」
 クルセイダーが心配そうに呟くのを聞き、セージは先ほどのアルケミストの様子を思い出してみる。
「うーん? 責任を感じてるっていうのとは、ちょっと違うと思うよ」
 でも、普通とは様子が違うのだろう、と不思議そうな顔をするクルセイダーに、セージは笑顔を見せる。
普段通りの笑みではなく、いつも以上に嬉しそうに。
「なんかね、寂しそうだった」
「寂しい?」
 お前、人が寂しそうだと嬉しそうに笑うのか。とクルセイダーは思ったのだが、このセージのことである、そう言ったところで肯定が返ってきそうなので問うのを止める。
「…あ、今、君、凄い失礼なこと考えなかった?」
 笑みのままのセージの言葉に、勢い良く頭を横に振って返答する。
鋭いセージに、ウィザードが彼を苦手に思う気分が分かるクルセイダーだった。
「話、戻すけど、寂しがってるって、良い傾向でしょ?」
「……なんで」
 セージの言葉は、全く分からない。
「もしかして、君も、馬鹿?」
 しかも、セージの言葉は、凄く失礼である。
大体、『君も』って何なんだ。『も』ってことは、他にも馬鹿な人が……居る。そういえば、クルセイダーのギルドには、割かし察しの悪い人たちが集まっているのだ。
風邪で寝込んでいるプリーストを筆頭に。
「俺が馬鹿なんじゃなくて、お前の言葉が難解すぎるだけだ」
 クルセイダーが不機嫌そうに言うと、セージはわざとらしく大きく溜息を吐く。
「バカだなぁ。ホント馬鹿だなぁ」
 セージが馬鹿にする筆頭がきっかり2週間居ないおかげで、その迷惑な鬱憤がどうやらクルセイダーに向かっているようである。
馬鹿を連呼するセージを怒るでもなく説明を待つ。ここで怒ると、更に酷い事態になるのは過去の経験上知っているし。
「君は自分の身長のことよりも、恋愛のことを気にしたほうが良いと思うよ」
「…身長は関係ないだろう」
「うん、関係ないよ。だから、恋愛のことを気にしなって」
 クルセイダーには、セージの言葉は全く分からない。



いつも隣にあった温もりが、急に2週間もいないことに寂しさを感じるってとこがどういうことか、恋愛に疎いクルセイダーには分からないのだ。